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振動センシングによる植物の生育診断


植物は日中,気孔を開いて蒸散を行うことによりアポプラスト(細胞壁および細胞間隙の全体)の水ポテンシャルを低下させます。そして,木部(道管)内部では水ポテンシャルの低下に伴った負圧が発生し,根から水を引き寄せる駆動力となります。維管束植物の場合,木部(道管)と呼ばれる死んだ細胞が連結してできた管を通って水分が植物に供給されます。
トマトやメロンなどの農作物は,適切な乾燥状態にすると高品質の果実を得ることができますが,そのためには,水やりを制限して乾燥ストレスを植物体に与える必要があります。
日中に蒸散量が増加していても水やりが制限されると,木部中の負圧が増大し細胞壁から微細な気泡が木部内部に入り込み,キャビテーション(発泡)が生じます。このキャビテーションは工業分野での現象より非常に微弱ですが,突発的事象であることは同じで,その際にアコースティック・エミッション(AE)と呼ばれる超音波を含む弾性波が発生します。このような超音波AEはAEセンサを用いて検出することができます。

本研究室では,乾燥などのストレスが変動する時のAEの発生挙動の応答を調べることにより,トマトのストレス応答を可視化する可能性を見出しています。
AEの発生は,茎内部の水を輸送する組織である木部の要素の一つに空気が入りこみ発泡(キャビテーション)したことを意味しますキャビテーションが生じた木部要素は空気で満たされるため水が通れなくなりますが,この状態をエンボリズム(塞栓症)と呼びます。
このとき,植物が健全な状態であればエンボリズムを修復することができます。具体的には木部要素に水を再充填することで空気を押し出します(リフィリング)。

しかし押し出された空気は,木部要素の近くに残留するため再びキャビテーションを生じさせます。従って,乾燥ストレスなどによりキャビテーションが生じやすい状態の場合,一つの木部要素でキャビテーションとリフィリングを活発に繰り返し,AEの発生数も増加します。
ところが,植物が他のストレスでエンボリズムを修復できなくなると,AE発生数は低下します。さらに,ストレスがほとんど生じていない場合でも,植物がキャビテーションに対する耐性を失い,エンボリズムを修復できなくなる場合もあります。
このように,AEの発生数は植物とストレスの状態の影響を強く受けます。そこで,例えば,水やりのように明らかにストレス(この場合乾燥ストレス)が変動する場合についてAE数の変化を測定します。
植物が健全に育っており,強いストレスが生じていない場合,水やりにより乾燥ストレスが変動するとAEの発生数も低下します。この場合,植物は乾燥ストレス変動に対して順方向の応答を示したことになります。
一方,水やり後にAEが増加する,すなわち植物が乾燥ストレス変動に対して逆方向の応答を示す場合もあります。この場合,ストレスが強すぎる,生育不良などのなんらかの原因が考えられます。

このように,かん水時の乾燥ストレス変動に対するAEの応答を数値化すれば,植物の状態変化を可視化できるのではないかと考えています。
例えば,下図は土耕ミニトマトにおいて十分に水をやりつづけた時と,わずかな水しか与えない状態を続けた場合で水やり前後のAE発生数を比較したものです。通常,水やり後にAE数が低下しますが,植物が乾燥ストレスに耐えられなくなってくると,水やり後にAE数が増加するようになります。

このように,水やり前後のAE数を比較するだけでなく,日照,温度などのさまざまなストレスが大きく変動する際のAEの応答を調べることで,植物の生育状態を診断する手法の開発を行っています。

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