エレクトレット・コンデンサ・センサ(ECS)
マイクロフォンには様々な原理が利用されていますが,その一つにエレクトレットコンデンサマイクロフォンというものがあります。これは,絶縁性の高い高分子フィルムに電荷を蓄積させエレクトレットと呼ばれる物質とします(下図の赤色の層)。エレクトレットは外部に電界を放出しており,下図のようにコンデンサ内部に置けば,コンデンサ内部に電界が生じます。このとき,コンデンサ電極の片側を振動板とし,音響により振動させると電極の変位と電界強度に比例してコンデンサの電位差が変化します。これをFETアンプにより増幅することにより,音響を電気信号に変換します。
エレクトレットコンデンサマイクロフォンの動作原理
このようなエレクトレットコンデンサマイクロフォン(ECM)は,携帯電話などに広く使用されていますが,超音波領域の測定には不向きであり,大音圧に弱いなどの問題があります。そこで,本研究室では,エレクトレットとマイクロギャップを利用した新しいエレクトレットセンサーの開発を行っています。
エレクトレットコンデンサセンサーの構造
エレクトレットコンデンサセンサ(ECS)は,従来単一の空気ギャップであった部分を高分子フィルムを積層することにより微視的な空気ギャップの層を作ります。これにより高電界による絶縁破壊を防ぎます。
このようなマイクロギャップ構造と高電界エレクトレットの使用により,振動板の剛性が高まる一方,電界強度の増加によりわずかな振動板の変位でも従来と同程度の出力が得られるようになります。その結果,耐圧性に優れ,広帯域のマイクロフォンを製造することが可能であることを見出しました。
本研究室では,このようなマイクロフォンを含めてエレクトレットを用いた振動センサーのことをエレクトレットコンデンサーセンサー(ECS)と呼んでいます。
ECSは,構造が単純で安価に製造可能なことから,主にマイクロフォンとして広く使用されています。本研究室では,コンデンサ内部に微視的な空気ギャップ(マイクロギャップ)を形成することで,高い電界を保持することを可能にしたECS関する研究を行っています。
下図に,研究対象の1つであるシリカ凝集体エレクトレットを用いたECSの構造を示します。シリカ凝集体はコロイダルシリカシリカを塗布乾燥することで容易に得られ,マイクロギャップを形成するスペーサーと耐熱性の高いエレクトレットを兼ねることができます。
AEセンサ
ECSは,マイクロギャップの変形を利用しているため,生物や生体の柔らかい組織のような,空気より剛性が高く,水より剛性が低い物質中の音響・振動に対する検出に対して最も優れた性能を発揮します。本研究室では植物の茎に取り付けて茎内部で生じる音響放射 (Acoustic Emission, AE)を検出するAEセンサの開発を続きて来ています。茎にセンサを取り付けるとき密着させるためにはある程度押し付ける必要があります。このとき,押し付けることで素子内部のマイクロギャップがつぶれると感度が大幅に低下します。そこで,素子周辺部にガード層を取り付けることで適度な力が素子に作用するように調節することで,感度の低下を防ぐことができます。
空中超音波センサ
ECSは,特に空中や生体のような低音響インピーダンスの媒体を伝播する1 MHz以下の超音波の送受信に適していると考えています。空中超音波センサーは圧電素子やMEMSなどを用いた数多くのセンサーが既に開発されています。 それらのセンサーと比較して,ECSは圧電素子より鋭い送受信波形が得られ(広帯域),MEMSセンサーより頑丈で耐圧性に優れる点が有利だと考えられます。
下図は,60-200 kHzで超音波をECSで送受信したときの受信波形です。圧電素子などの従来の超音波センサは強い共振を利用しているため,特定の周波数での送受信を想定しています。ECSを用いると広い周波数帯域で同じような強さの超音波を送受信できるため周波数変調が可能となります。
また,下図は20mmの距離でECSを用いて超音波の送受信を行ったときの送受信波形です。直接受信子に到達した超音波だけでなく,20mmの間を何度も往復した超音波も検出されていることが分かります。 このようにECSは狭小空間での距離や音速測定に優れています。
デュアルセンサ
さらに,ECS素子を2枚積層すれば,片方を送信用,もう片方を受信用として使用できるデュアルセンサーを容易に製作できます。
このようなデュアルセンサーは実際の送信時のECSの振動を受信子により観察することができます。このようなデュアルセンサーを軟質材料に接触させて振動を発生させると,軟質材料の硬さに応じて送信時のFilmECSの振動が変化します。そして,受信子で得られる送受信波形から周波数と信号ピーク強度から計算されるパラメータを用いれば硬さと密接な相関があることがわかっています。このようなデュアルセンサーは農作物の品質評価,筋肉のこりの数値化など生体診断センサーとして応用することが期待されています。